福祉のあれこれ
「全国犯罪被害者の会(あすの会)」の解散に寄せて
2018.7.30
2018年6月3日、全国犯罪被害者の会(あすの会)が最終大会を開き18年間の活動に幕を閉じた。あすの会は、犯罪被害者の権利獲得と補償制度の拡充に向けて活動してきた当事者団体である。
会員は生命・身体に関わる犯罪の被害者やご遺族の方々で、岡村勲弁護士が代表幹事を長く務められた。岡村氏は妻を理不尽な犯罪で殺害されたご遺族で、当事者となってはじめて刑事裁判での被害者の権利が皆無であることに気づき、あすの会を立ち上げその運動を引っ張ってこられた方である。
現在ある犯罪被害者のための制度や施策は、あすの会の強力な運動によって成立してきたといって過言でない。たとえば犯罪被害者等基本法(以下、基本法)の制定、刑事裁判における被害者参加制度や少年審判の傍聴制度の創設、犯罪被害者等給付制度の拡充、凶悪犯罪の公訴時効の撤廃など、いずれもあすの会の運動の成果である。もし、あすの会がなかったら、わが国の被害者のための制度・施策はこれほど進展しなかっただろう。
私は2006年頃からあすの会の関東集会に参加させていただくようになり、被害者が置かれる現状について多くのことを学ぶ機会を得た。大学院生とともに、会員の方々にあすの会の活動体験についてインタビュー調査も実施させていただいた。その調査結果は「犯罪被害者遺族の被害者運動参加―エンパワメント・アプローチに着目して―」(『社会福祉学』50巻4号 , p55~68)という論文にまとめている。
また2007年6月には、会員である本村洋さん(山口県光市母子殺害事件の被害者ご遺族)を招いて、上智大学で講演をしていただいたことも忘れ難い思い出である。会場の10号館講堂は学生や教職員、外部の方で満員となり、立ち席が出るほどだった。テーマは「犯罪被害者遺族になって思うこと」―自分の事件の経過から始まり、犯罪発生状況と再犯率の概略、被害者に必要な権利、基本法の制定、命の尊さに至るまで熱く語られた。本村さんご自身の体験から裁判制度や被害者の権利など深く勉強し考え抜いたことが反映された、示唆に富む内容だった。「犯罪は被害者・加害者双方とも不幸な結果しかない、つまり犯罪を減らす努力をしなければならない」と締め括ったのも印象に残っている。
最終大会では、岡村氏の話、会員の方々や支援者のあすの会に寄せるコメントが続いた。岡村氏は「湿っぽくならないように」と口にされ、努めて客観的に話されていたが、時折声を詰まらせる場面があり、あすの会への想いや18年間の活動の重みをあらためて感じた。
会員の方たちはあすの会の活動によって獲得した被害者のための諸制度のほとんどの恩恵を受けることはできない。それにもかかわらず、今後自分たちと同じ思いをする被害者が出ないようにとの強い思いから活動を続けてきた。市民活動としても独自の大きな足跡を残したといえよう。
あすの会を解散する理由として、被害者の権利獲得運動において一定の成果を上げたこと、会の幹事の高齢化、全国各地に支援組織ができて会員が増えなくなったことを挙げていた。確かに現在、全国に多くの被害者当事者団体や支援団体が生まれ活動している。しかし、被害者支援についてはまだまだ課題がある。制度・施策などハード面は整ってきたが、それを動かしていくソフト面、被害者支援を担う専門職の養成が急務である。とくに、被害者の方が地域社会で生活を再建するためには中長期に渡る支援が必要であり、ソーシャルワークの視点をもった専門職が関わっていくことが課題である。今後どのように被害者支援態勢を充実させていくか、ソーシャルワークを専門とする者として私も微力ながら力を注いでいきたいと思っている。