福祉のあれこれ

2022年度を振り返って コロナ禍を徐々に抜け出た日々

2023.5.8

 2022年度はようやくコロナ禍の長いトンネルを抜け出た感あり。科研費による調査研究の最終年度であり、調査結果の総まとめに多くの時間を費やした。また、被害者支援の研究に携わっている者の一人として、さまざまな社会活動に関わる機会を得たので記しておきたい。

6月 デジタル社会における被害者支援とは―日本被害者学会のシンポジウムを通して

 犯罪等の被害者に関する問題を総合的に研究する学会として日本被害者学会がある。1990年に刑事司法の学者を中心に設立された学会だが、現在は精神科医、刑事司法手続や被害者支援にたずさわる実務家、そして社会福祉分野の研究者などが関わるようになり、文字通り学際的な学会となっている。6月4日にこの学会の第32回学術大会が慶應義塾大学三田キャンパスからオンライン配信で開催された。今回のシンポジウムのテーマは、「デジタル社会と被害者」。私はコーディネーターとして、シンポジウムの企画・進行を担った。

 シンポジウムでは、デジタル社会が進む中で生じている個人に対する被害、新たに生まれてきている負の側面について、その実態と対策について取り上げた。ネット上の規制や対策に携わっておられる官民5名のシンポジストをお招きしたが、各報告テーマは、「警察におけるインターネット上の違法情報等への対応について」、「総務省におけるネット上の誹謗中傷対策について」、「ホットライン活動を通じた違法有害情報への対応について」、「ネット利用における児童の被害への対応」、「デジタル性暴力・性的搾取の相談支援」であった(詳細は「被害者学研究」第32号 2023年3月刊行を参照)。

 デジタル社会というと、新たな情報通信技術や革新的なサービスに目が行きがちだが、デジタル空間における詐欺、児童ポルノ、リベンジポルノ、SNSを通じた誹謗中傷、情報の窃取、業務妨害等さまざまな被害が発生している。被害の実態を見極め、規制・対策を講じていくとともに、とくに子どもがネット被害に陥らないために家庭や学校をはじめとする社会の対応が求められている。

6月 医療観察と被害者の問題 ―シンポジウムに参加して

 6月15日、霞が関の東京弁護士会講堂で、「医療観察事件における被害者の関与と情報へのアクセスを考えるシンポジウム」が開かれた。主催は「医療観察法と被害者の会」。その案内によると「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)の施行から間もなく17 年。運用については概ね評価されているものの、被害者や遺族の権利利益の擁護に関する法制度の整備はいまだ不十分なままです。」とある。医療観察法の対象となると、被害者や遺族は手続への関与や情報提供などの面でさまざまな制約を受ける。そうした面を改善しよう、法制度を拡充しようという趣旨で開かれたのがこのシンポジウムであった。医療観察に関するシンポジウムが開かれるのは東京では初めてのことで、当日は関係者や当事者など100名近い参加者があり、YouTube 配信も行われた。

 私は講演者の一人として、「被害者支援の進捗状況と医療観察」というテーマで短い報告を行った。わが国の被害者支援の進展を押さえたうえで、医療観察事件の被害者等の権利利益が一般の刑事事件の被害者等と比べ、いかに制限されているかを指摘し、被害者の要望に沿った、制度・施策を目指すには何が必要かを提案した。

 医療観察における被害者等に対する対応の格差は、見過ごされてきた問題の1つといえる。ぜひ、多くの人に関心をもってもらい、改善に向けての後押しを共に考えてほしい。

11月 警察庁と埼玉県共催の支援体制研修会の講師として

 11月16日、警察庁と埼玉県共催の「令和4年度犯罪被害者等施策の総合的推進に関する事業」による研修会に講師として呼ばれた。埼玉県の被害者支援に携わる警察、行政、民間支援団体の担当者を対象に、「今、被害者支援において自治体に求められること-社会福祉的視点から-」というテーマで、対面とオンライン配信のハイブリッド方式で50分ほどの話をした。

 埼玉県は、県と警察、民間支援団体の3機関を同一施設に集約し、ワンストップ支援体制(「彩の国犯罪被害者ワンストップ支援センター」)を構築していることで全国的によく知られている。この研修会の後半では、模擬事例を基にした他機関との連携支援の検討が行われたが、大変興味深かった。被害者の家庭事情等も踏まえて、県、民間支援団体、居住地の自治体が協力連携するプロセスが検討され、支援体制の進展をうかがわせる内容だった。

 こうした連携が全国で進み、市町村レベルの相談窓口が力をつけていくことが望まれる。

マスコミからの取材を受けて

 2022年度はマスコミからいくつかの取材依頼があり、「被害者支援に役立つなら‥」との思いで引き受けた。

 まず、NHK。9月初旬に報道番組センターディレクターTさん、報道局社会部記者Hさんから連絡があり、NHKの看板番組「クローズアップ現代」で犯罪被害者の問題を取り上げるとのこと。被害当事者をはじめ多くの関係者への取材を進める中で、私の著者やHPを見て取材を依頼してきたようだった。二人に直接会い、今までのわが国の被害者支援の発展経緯や、現状と課題について大枠のところを伝えた。それから3か月近く、この二人を中心に多角的に取材を重ね、大変充実した番組を創り上げた。題して「事件の“その後”に何が 犯罪被害者の闘い」、11月30日に放映された。

 犯罪被害にあったことで陥る苦境を描き、必要とされる支援について徹底検証した内容となっている。NHKサイト「クローズアップ現代」ではこの番組内容を詳しく紹介しており、また「クロ現取材ノート」として、民間支援団体についてのアンケート調査やヒアリングの実施結果(「もしあなたが犯罪被害に遭ったら……支えてくれる“窓口”は」)なども載せている。

 私自身は大した手伝いもできなかったが、TさんとHさんからは深夜や早朝に問い合わせのメールが届くこともあり、放映ギリギリまで調整し番組作りに精魂を傾けていたことがうかがわれた。被害者支援の現状が実に分かりやすく解説されているので、上記のNHKサイトをぜひご覧いただきたい。

 つぎに、東京新聞。12月に社会部記者Kさんから連絡があった。2007年に九州で知的障害をもつ男性が自転車で「蛇行」運転していたところ、5人の警察官に取り押さえられ直後に死亡した事件について取り上げるので、コメントをもらいたいとのことだった。Kさんは日本社会事業大学の卒業生で、私が同専門学校卒であることや警視庁に勤めていたことから依頼があった。この事件は、障害特性の理解が不十分なゆえに起きた痛ましい事件ともいえる。私は刑事司法機関における障害者対応の必要性について簡単にコメントしただけだったが、掲載記事は、警察官職務執行法の改正や障害者権利条約に基づく国連勧告にも言及した内容の濃いものとなっている(東京新聞2022年12月19日朝刊「こちら特捜部」に掲載)。

 そして、読売新聞。社会部記者Nさんから、公益社団法人全国被害者支援ネットワークが実施している「ホンデリング」紹介記事にコメントを寄せてほしいという依頼があった。記事のタイトルは「古本で犯罪被害者援助」。「ホンデリング」とは不要になった本を寄付してもらい、その売却代金を同ネットワークの傘下にある全国の民間支援団体(支援センター)に分配する取組みである。支援センターは被害者に寄り添ったきめ細かい支援活動を担っているが、財政的に苦しいところも多い。市民や企業等からの古本を通じたこうした援助は有難い。なかなか知られていない取組みに着目し、夕刊3面に滑り込ませてくれたN記者の努力に感謝したい(2023年3月24日夕刊に掲載。私のコメントは最終部に)。

 マスコミから取材依頼があると「うまく伝わるか」としり込みすることもあるが、今回は若いディレクターや記者たちからエネルギーをもらい、逆にいろいろ教えてもらった気がしている。社会課題にアンテナを張って取材を続ける若い人たちの活躍に大いに期待したい。

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