福祉のあれこれ
2025年度(2025年4月~2026年3月)を振り返って 現場に学び、考え続けた一年
2026.5.18
2025年度は、被害者支援を主なテーマとして、制度・施策、調査研究、研修、執筆に取り組んだ一年だった。振り返ってみると、5月には、イエズス会出身で上智大学にも来訪されたフランシスコ教皇が帰天され、新たにレオ17世が教皇に選ばれた。新教皇(私と同世代!)については、「穏やかで謙虚なお人柄」「7か国語に堪能」といった報道がすぐに伝わり、どこか明るい風を感じさせる2025年度の始まりだった。それから約一年、残念ながら世界情勢は混迷を深める一方に見えるが、私自身の2025年度を振り返ってみたい。
5月 犯罪被害者の権利拡充のために邁進した岡村勲先生を偲んで
「全国犯罪被害者の会」(あすの会)を立ち上げた弁護士の岡村勲先生が2月24日に逝去された。享年95歳。5月12日には東京千代田区の如水会館で「お別れの会」が開かれた。
私が被害者の問題に関心を持つようになったのは、岡村先生の論文を読んだことが一つのきっかけだった。2000年に発足したあすの会の会合には、2005年頃から大学院生と共に参加させていただくようになり、大変お世話になった。
岡村先生は、いつも穏やかな口調で、被害者が置かれている苦境や理不尽さについて語られ、被害者の権利を確立する必要性を繰り返し訴えておられた。先生の長年にわたる尽力があったからこそ、日本の刑事司法における被害者の権利拡充や被害者支援は、大きく前進できたのだと思う。
「お別れの会」の会場には、岡村先生の写真や遺品、歩みをたどるパネルなどが展示され、数百名にのぼる方々が参列していた。あすの会の元会員の方々とも久しぶりに再会し、岡村先生を偲びながら懐かしい時間を過ごした。
弔辞では、上川陽子議員(元法務大臣)が、今後も被害者支援をさらに前進させていく決意を力強く語られた。ある意味では、一つの時代が終わり、これからは新しい世代の支援者や研究者たちが、その歩みを引き継いでいく時代に入ったのだと感じている。
8月 静岡県の被害者支援のための協議会に招かれて
8月25日、「静岡県犯罪被害者等支援推進協議会」に招かれ、講演を行った。テーマは「途切れない犯罪被害者等支援の提供体制について―最近の国の動きを踏まえて」である。
静岡県では、これまで警察が中心となって被害者支援体制の整備が進められており、県内35市町すべてで、被害者支援に関する特化条例が制定されている。現在、警察庁が推進しているワンストップサービス体制について、静岡県としてどのように構築していくか、真剣に取り組んでおられる様子が強く伝わってきた。
今後、警察との連携を基盤としながら、自治体を中核とした、静岡県ならではの支援体制が築かれていくことを期待している。
9月 広島県の被害者支援のための研修に招かれて
9月11日、広島県庁で行われた「犯罪被害者等支援研修」に招かれ、講演を行った。テーマは「地方公共団体における被害者等支援に求められること~最近の国の動きを踏まえて~」である。
この研修では、第2部として質疑応答・意見交換の時間が設けられ、事前に寄せられた質問に答える形で進められた。質問内容は、支援主体のあり方にはじまり、支援の対象範囲、生活支援の具体的内容、他機関との情報共有、コーディネーターの役割など実に幅広く、現場がどのような課題や悩みを抱えているのかがよく分かった。警察庁の担当部署から助言をいただきながら準備を進め、当日は一つひとつの質問に丁寧に答えたつもりだが、十分に答えることができたか、やや心もとない気持ちも残っている。
何より、数多くの質問を丁寧に整理し、取りまとめてくださった広島県の担当者の方々に感謝したい。
余談になるが、広島へ向かう新幹線が大雨による電気系統のトラブルで停止し、車内に153分も閉じ込められるという出来事があった。幸い、読みたいと思って持参していた本が一冊あったので、降り続く雨を車窓越しに眺めながら、何とか読書で時間をやり過ごした。密かに予定していた広島平和記念資料館を訪れる時間はなくなってしまったが、いつか改めて、ゆっくり広島を訪ねたいと思っている。
12月 東京都行政書士会主催の被害者支援に関する研修に招かれて
12月8日、東京都行政書士会に招かれて「被害者支援に関する基礎研修」の講師を務めた。科目は「被害にあった方々への対応について~最近の国の動きを踏まえて~」である。
今回の研修は、上智大学の卒業生の方が東京都行政書士会の要職に就いておられることがきっかけで、お声がけいただいた。行政書士は「街の法律家」とも呼ばれ、行政と市民をつなぐ重要な役割を担う専門職である。
被害者支援において多機関連携がますます重要となる中、行政書士会でも理解と関心が広がり、支援ネットワークの一員として力を発揮していただけることを願っている。
12月 法務省・中央更生保護審査会委員の任期を終えて
12月末で「中央更生保護審査会」委員の6年間の任期が終了した。世間一般にはあまり知られていない審査会だが、法務省に置かれ、主に個別恩赦のケースを審議する機関である。むずかしいケースを扱うことも多く、日々「勉強」と「判断」の連続だった。罪と償い、真の謝罪、さらには死刑存置の問題などについて、抽象論では済まされない現実的な課題として深く考える機会にもなった。
私の研究テーマである司法福祉、被害者支援、加害者の更生とも重なる仕事であり、振り返れば大変恵まれた6年間だったと思う。おかげさまで、任期中には2冊の本を刊行することもできた。
委員を退任する最終日には、保護局の職員の方々が大勢見送りに来てくださり、思わず胸が熱くなるひとときもあった。大学教員としての日々とはまた異なる環境の中で、法務省の若く優秀な職員の方々と共に仕事ができたことは、かけがえのない大切な想い出となっている。
2026年1月 「第5次犯罪被害者等基本計画」の策定に携わって
2004年に制定された犯罪被害者等基本法に基づき、2005年犯罪被害者等基本計画(以下、基本計画)が策定され、5年ごとに見直しがなされている。2025年は第4次基本計画を評価し、第5次基本計画を策定する時期となり、私は有識者として基本計画策定・推進専門委員等会議に関わった。第3次基本計画策定の途中から専門委員として携わっており、今回は3回目となる。
基本計画は、徐々に整備され被害者等のニーズにきめ細かく対応する内容となってきた。第5次基本計画では、まずフォーマットが一新された。5つの重点課題ごとに「現状認識と具体的施策の方向性」「具体的施策」が示され、最終章に「犯罪被害者等施策の動向を把握するための参考指標」を設けるなど、かなり読みやすくなったと思う。
この基本計画の「目玉」といえる施策としては、「被害者手帳」(被害者等に必要な行政サービスや支援情報等を記録するもの)の作成・交付、支援の経過を共有するための「カルテ化」の導入、「犯罪被害者等支援コーディネーター」の養成充実、民間企業における「被害者等のための休暇制度」の導入促進、さらには「犯罪被害者週間」を「月間」へと拡大することなどが挙げられる。
個人的には、医療観察対象事件における被害者等の権利保障のための多角的な検討を行うことが明記されたこと、そして初めて基本計画の中に「ソーシャルワークの観点」という文言が盛り込まれたこと(重点課題4「具体的施策の方向性」P55)を、大きな成果として受け止めている。
また、私にとっての懸案事項であった「被害者等通知制度」についても、法務省との協議を重ねた結果、「必要な検討を行う」との記述が入った。今後の改善につながる、確かな「進歩」と捉えたい。
1月下旬に上記の会議において第5次基本計画(案)が確定した。3月に閣議決定がなされ、4月から施行される(2026年4月1日から2031年3月31日までの5か年計画)。多くの議論と検討を重ね、ようやく第5次基本計画がスタートするところである。
これから5年間、施策が実際にどのような形で具体化されていくのか、引き続き注視していきたい。そして、被害者等施策の今後のあり方について、より多くの人々に関心を持っていただければと思う。
3月 医療観察対象事件の被害者問題に関する調査研究の報告
被害者支援の分野の中でも、とりわけ立ち遅れていると感じていたのが、医療観察対象事件における被害者の問題である。私は以前から、被害の実態やその課題について、調査研究ができないかと考えてきた。
医療観察制度とは、心神喪失または心神耗弱の状態で重大な他害行為(殺人、放火、強盗、不同意性交等)を行った者に対して、適切な医療を提供し、社会復帰を促進することを目的とした制度である。しかしその一方で、こうした事件の被害者等については、権利が大きく制限され、十分な支援を受けられない状況が続いていた。
今回、公益財団法人ユニベール財団の研究助成を受け、「医療観察制度の対象事案における被害当事者の権利擁護と支援策に関する研究」をテーマとして調査を実施した。研究代表者は中村秀郷氏(西南学院大学)であり、私は共同研究者として、被害当事者の方々や対象者の処遇担当者等へのインタビューを担当した。
2025年5月から9月にかけて調査を実施し、被害者等を対象にしたインタビューの結果について、3月にユニベール財団主催の研究報告会で発表した。調査結果からは、医療観察対象事件の被害者等が、制度の中で十分に位置づけられず、多くの困難や不安を抱えている実態が浮かび上がった。そこで、①被害者等を制度内の「当事者」として明確に位置づけること、②情報提供と関与の機会を一体的に整備し、「参加する権利」「知る権利」を実質化すること、③情報提供の時期・範囲・手続を明確にし、不透明さによる混乱や不安を生まない仕組みにすること、④医療観察対象事件であると判明した段階から、必要な支援資源へ切れ目なくつなぐ体制を整備すること―などを提案した。
こうした被害者等の置かれている実態が広く社会に認識され、医療観察制度の改善につながることを願っている。
寄稿した論文などについて
2025年度は社会福祉実践の総合研究誌や、被害者支援団体の機関誌などに、論文やエッセイを寄稿する機会を得た。自分なりに多くの文献を読み込み、時間をかけて取り組んだテーマもあれば、カナダ視察の報告のように、楽しみながら執筆したものもある。もしお目通しいただき、ご意見やご感想をお寄せいただければ、大変ありがたく思う。
- ①巻頭のことば「被害者支援をさらに押し進めるために」『ふれあい』(公益財団法人犯罪被害救援基金発行)No.170 春季号,2025年4月,p.3
- ②特集論文「ソーシャルワークにおける援助関係の構築―治療的関係から「成長」に着目した関係まで―」『ソーシャルワーク研究』Vol.3 No.3【通巻第11号】,2025年7月,p.15―24
この論文では、ソーシャルワークにおける「古くて新しいテーマ」ともいえる援助関係を取り上げている。主要なソーシャルワーク実践アプローチを踏まえながら、ソーシャルワークの発展の中で援助関係がどのように定義されてきたかを整理し、援助関係を構築するための要素や方策についてまとめた。さらに、「心的外傷後成長(Posttraumatic Growth)」の観点から、クライエントとの関わりについて検討を加えた。今後、AIの進展によって、ソーシャルワークにおける援助関係のあり方も大きく変化していくかもしれない。だからこそ、援助関係をめぐる基礎的な理論や実践の流れを、いま改めて丁寧に押さえておくことが大切だと考えている。 - ③「カナダ・バンクーバー市警察における被害者支援」『センターニュース』(公益社団法人被害者支援都民センター発行)第76号,2025年8月,p.2
- ④「ブリティッシュコロンビア州を中心とした修復的司法の実践」『更生保護』第76巻第11号,2025年11月,p.54―57
- ⑤講座 犯罪被害に遭った人々への支援―ソーシャルワークの必要性「第1回 犯罪被害者に対する支援の動向とソーシャルワークとの接点」『ソーシャルワーク研究』Vol.4 No.1【通巻第13号】,2026年1月,p.61―64
この講座は、『ソーシャルワーク研究』編集委員会にお願いし、4回連載という形で掲載していただけることになったものである。連載の目的は、被害者支援に対する福祉分野の理解を深めることにある。第1回(私と大岡由佳氏との共著)では、被害者支援に関する国の施策動向を整理したうえで、ソーシャルワークの必要性について概説した。
第2回以降は、研究者に加え、現場で直接支援に携わっている、あるいは携わってきた中堅ソーシャルワーカーに執筆いただき、障害のある被害者等の状況と支援課題、地方公共団体における被害者支援の現状、さらに民間被害者支援団体や性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターにおける支援の現状と課題などを取り上げる予定である。
福祉分野において、被害者支援への関心は、加害者の更生支援に比べると明らかに低調である。この連載が、犯罪被害という社会課題や被害者支援の重要性、さらにはソーシャルワークの必要性について、読者の認識を新たにする機会となることを願っている。







