ゼミ紹介

ゼミ生の参観レポート

立川拘置所を参観して

 秋晴れの11月1日、ゼミで立川拘置所を参観させていただいた。立川拘置所は「多摩地区の治安を支える都市型拘置所」として平成21年に新たに設置された。緑の多い地域環境と調和した造りになっていて、再生可能エネルギーを利用するなど環境にも配慮しているという。

 当日は、立川拘置所の概要説明を受けたあと、8階にある運動場から始まって居室、医務室、炊事場まで一通り見学した。見学後の質疑応答も40分近く取っていただき、拘置所の機能、立川拘置所における改善指導や最近の収容者の傾向など丁寧に説明していただいた。昔と違ってオープンな雰囲気で収容者の人権にも敏感になっているという印象を受けた。

 以下、ゼミ生の感想レポートの一部を載せる。

2年 K.M.

 立川拘置所を参観し、処遇の厳しさについて、また拘置所の抱える課題について考えたことを述べていきたい。まず処遇の厳しさについて、参観前に想像していたよりも厳しい部分、緩い部分のどちらもあったように感じた。生活する施設や設備に関しては、想像以上に処遇が厳しくされていた。例えば、4~8人が共同で生活することがあると聞いた部屋は人数の割に合わない程狭かった。また、浴室やトイレにも外から監視できるような大きな窓が設置されており、一人部屋のトイレは簡単に動かすことの出来る仕切り一枚のみで壁はない。ドアの内側にはドアノブがなく、また施設内から外の景色は見えないような封鎖的空間になっていた。さらに、運動場も運動場と呼べるのか分からない程に狭く、その中をぐるぐると歩いたり筋トレを自主的にやったりするしかないという話を聞いたときはかなりの衝撃を受けた。そのような、自分一人で過ごせるプライベートな時間がまったくなく、リフレッシュの場も厳しい制限を受けていると、精神の健康管理が難しいのではないかと感じた。また、被疑者及び被告人の人権について考えさせられた。

 一方で、被疑者及び被告人の身体の健康に関する配慮は想像以上によくされているように感じた。治療費、入院費、手術費が公費負担になることや定期的な健康診断がされることにはとても驚いた。単純すぎる考えではあるが、貧しい暮らしをしていて健康に問題が出ている人が犯罪を起こしたら、犯罪を起こす前よりは幾分良い治療を受けられ、また良い暮らしが出来ることもあるのではないかと考えてしまった。

 これらを踏まえて、処遇に関して、被疑者や被告人の人権に配慮しながらも再犯防止や社会復帰促進を目指せる範囲に収めることが理想的であると考える。だがそれは難しいと現場を見て思った。人権と刑罰の両立について、今後勉強していく中で考えを深めていけたらと思う。

 また、特殊な場合の配慮について拘置所は多くの課題を抱えていると感じた。職員の方から「刑務所は社会の縮図と言われている」というお話があった。社会ではLGBT等の性別の多様化や高齢化が進んでいる。今回立川拘置所内を参観してみて、様々なプライベートな部分までが監視下にあるということが分かった。そういった観点から性別にかかわる問題は深刻であり、早急に対応が必要であるように感じた。また、外国人の被疑者及び被告人や、信仰する宗教がある者、家族の命日を迎える者がいた場合、個別に出来る範囲内で対応するというお話があった。だが、ルールのない中で個別に対応するにはケースが多そうであり、それぞれの対応に多少の差が生まれてしまうことが今後予測されると思う。その差は拘置所だけでなく法・制度や国に対する不信感にも繋がりかねない。変遷する社会に対応し、また国・法・制度への信頼感を保って秩序を守るためにも、時代の変化に合った特殊な場合への対策が必要であると考えた。今回の立川拘置所の参観は、社会の中での刑事施設のあり方についてさらに考えたいと感じる体験になった。

2年 H.M.

 立川拘置所を見学させていただき、主に2点について自分なりに考えた。1つは「開かれた施設である意味」、もう一つは「刑事施設におけるソーシャルワークの必要性」についてだ。実際に見聞きして知った現状と、そこから考えた課題と目指すべき姿について述べたい。

 立川拘置所のパンフレットや見学時に見せていただいた動画において、立川拘置所が開かれた刑事施設を目指していることを述べている。その要素は、周辺地域と調和するデザインと、広報イベントを開いたり敷地の一部を開放したりして地域とのつながりを作っている点にある。開かれた施設を目指す理由は、まずは住民にある程度受け入れてもらわなければ拘置所建設の時点で反対が起こったりするからではないかと感じた。保育所や障害者施設が住民に建設反対されてしまう中で、拘置所ならば住民の不安はより大きく、反対されやすいのではないか。福祉の観点から言えばソーシャルインクルージョン、出所後の受け皿としての地域とのつながりを作りたいという意図があると思う。しかし、一般市民が刑事施設に期待する機能は「犯罪者を隔離することと罰を与えること」のように感じる。地域交流イベントなどを開くことで、地域に対して更生・矯正の意義や、出所後に労働者や住民として受け入れてもらう必要性について伝えることができているのか、その効果について知りたいと思った。また、民間刑務所では出所後もその地で暮らしていけるような取り組みをしていると聞いたので、それについても今後学びたい。

 次に、刑事施設におけるソーシャルワークの必要性について考えた。刑事施設の入所者は、生活上課題を抱えている要支援者と言っていいだろう。何らかの理由で社会的排除の状態から、犯罪に至り、さらに社会の中に居場所を無くした状態だと考える。刑事施設内で矯正処遇を経ても、出所後も社会的排除の状態であれば再犯に陥りやすい環境と言えるだろう。今後社会復帰していくうえで、出所後の居場所を確保し、社会に適応していけるような支援が必要だと考えられる。こういったソーシャルワークの視点を持った支援が必要だと考えるが、立川拘置所には社会福祉士は配置していないとのことだった。また、個別の支援計画や実施をするほどの余裕もないとのことだった。十分に個別的支援ができている状態とは言えないだろう。刑事施設は限られた人数で多くの入所者を管理することが求められるため、個別の対応は人的コストの面で難しい。それを充実させるためには国レベルでの決定が必要だろう。そのためには行政だけでなく一般社会の理解・後押しも必要となる。ミクロレベルでのソーシャルワーク実践のためには、社会や国に働きかけるマクロレベルでのソーシャルアクションが必要なのだと感じた。

 刑事施設には、入所者を厳しく管理する面と、社会復帰を支援する面がある。後者をより充実させることで再犯防止や社会復帰につながる。そのためには入所者へのソーシャルワークの必要性の認知度を高め支援を充実させること、地域の中に出所後の居場所を作ることが求められる。刑事施設のあり方は施設内のソーシャルワーク実践にとどまらない、社会を巻き込んで考えるべき社会政策・ソーシャルワーク課題なのだと学んだ。

3年 A.S.

 立川拘置所を訪れる機会を得て、恥ずかしながら今まで刑事施設、もっと言えば司法にかかわる施設に立ち入ったことはなく、非常に新鮮な気持ちで参観することができた。学ぶことが多くあったため、その中から抜粋して記述するものとする。

 参観している中で一つ目に驚いた点が、拘置所内の環境だ。ドアノブのない部屋のドアやあまり隠せないトイレ、決して広くはない部屋。特に前2つは私にはまったくなじみがなく、ショックを受けた。頭の中に思い描いていた刑事施設そのものだった。食事も細い便利口から入れられ必要がない時には出られない。当たり前だが、まともな環境ではない。ここに入れば間違いなく「犯罪者の烙印を押されている」と感じるだろう。一方で持ち込める荷物がスーツケース一つ分であり、そのスーツケースも意外と大きいことや、風呂などがかなりきれいだったことには素直に驚き、良い環境だと思った。また冷暖房や職員呼び出しがしっかりと備わっている点は、被収容者に対する配慮とリスクヘッジが行き届いている証拠だと考える。昨今の異常気象や犯罪者の高年齢化などを考えれば、冷暖房のない所内は現実味がないだろう。犯罪者であっても人権はあるのだから、他施設においても改修を進めるようにした方がいいのではないだろうか。

 二つ目に驚いた点が、出所する受刑者たちを無責任に放り出すのではなく、就職などを斡旋しているという点だ。確かに職がなければ金がないためまた罪を犯してしまうだろう。再犯率が問題になっている今、こういった試みを行っていることは非常に喜ばしいことだと思う。一方でやはり再犯高齢者の扱いは難しいのだと考えた。再就職という手段もなければ家族も失っているかもしれない高齢者の犯罪をどう扱っていくかは、これからの高齢社会において非常に重要な問題となっていくだろう。例えば国が高齢者雇用公社のようなものを設立していく手段などが考えられるが、身体能力などを考えるとあまり現実的ではないのかもしれない。

 今回の見学で被収容者は事前に考えていたよりは、いい環境に置かれていることが分かった。しかし、事前学習(プレゼンの準備)をする中で知った、刑務所ではあるがスウェーデンの状況とどうしても比較してしまった。スウェーデンでは刑務所に収容されている期間中に、刑務所外の場所で就労したり、学習したり、更には休暇をとったりすることができ、各自の房のドアの鍵は受刑者自身が保有し自由に内部から施錠できる。それと比べると日本の最新の拘置所でもまだまだ大きな隔たりがあるように感じる。確かに高い壁こそなかったが、結局厳重なセキュリティによって外部から隔離されていることに変わりはない。

 再犯率の低い、よりよい社会システムを目指してどのような刑事施設であればよいのかを考え続けなければならない。

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