ゼミ紹介
ゼミ生の参観レポート
東日本少年矯正医療・教育センターを参観して
真夏の太陽が照りつける8月6日、ゼミで東日本少年矯正医療・教育センターを参観した。同センターは関東医療少年院と神奈川医療少年院が統合された施設で、立川基地の跡地の広大な敷地に建つ国際法務総合センターの一角に位置している。この4月に開所したばかりで大学からの参観は初めてとのこと、丁寧に受け入れていただいた。
教育調査官の方から同センターの概要や入所者の特徴、矯正教育の内容など詳しい説明を伺ったあと、空調のきいた居室、教室、陶芸室、木工室、体育館など真新しい施設の中を見学した。社会復帰を目指したきめ細かな矯正教育と、医療との連携が印象に残った。
以下、ゼミ生の感想レポートの一部を載せる。
4年 K.T.
東日本少年矯正医療・教育センターは、昭島市の国際法務総合センターの一角にあった。外観は、「都内に位置する綺麗に整備された私立の学校」のような印象を受けた。中を案内して頂いたが、少年院というよりは雰囲気の良い病院のような印象を受けた。空調も整備されているようであったため、入院した少年たちの生活環境は劣悪なものではなく、むしろ矯正教育を実践するためにはとてもよい環境であると感じた。実際に職員の方にお話を聞いてみると興味深い点が3点あった。以下その二点について考察していく。
一点目は、「非社会」の少年が多く入所していることである。「反社会」ではなく、「非社会」というワードが非常に気になった。「社会に反する行動をしたために少年院に収容する」というイメージを持っていたため、「非社会」の場合そもそも罪を犯す段階にはいないはずの存在なのではないか、という疑問が湧いてくる。石井光太(『漂流児童 福祉施設の最前線をゆく』2018潮出出版)によれば、「昔の少年院は、ヤンキーが暴力行為で送られてくるみたいなイメージがありましたよね。女子でも同じでした。社会に対する行き場のない怒りを暴力で噴出させてしまう、いわゆる『反社会』の子です。でも、今はそんな子は稀です。代わりに現れたのが、『非社会』の子。非社会っていうのは、社会に適応できないということです。例えば不登校でフラフラして、かといってグレるわけでもなく、暇つぶしのようにネットで援助交際をして捕まるような子」であるという。非社会の子の場合、他者に対して気持ちを爆発させるのではなく、自傷行為等を通して爆発させるという。目に見える暴力行為によって発散される場合、他者の目に触れやすく、非行少年を早い段階で矯正教育へと導くきっかけが散りばめられているように感じる。一方で、「非社会」の子と言われ、自分に向けて感情を爆発させるタイプの非行少年の場合、顕在化しづらく、殺人や強姦などの大きな犯罪をして初めて周囲に顕在化することとなるのではないかと考えられる。参観時に拝見した少年の犯罪種別データにも、「殺人」「強姦」の割合がかなり高く占めていたことも、説明要因とできよう。非行・犯罪は社会のあり方にとても影響を受ける。時代によって少年たちの抱える困り感も変化し、それらに対応する矯正教育のあり方も変化しつづけていく必要性があることを学べた。
二点目は、医療少年院は通常の少年院への「つなぎ」の役割を果たしているということである。職員の方に、「出院後、少年はどのようなところに帰るか」と聞いたところ、「通常の少年院へ送られることが多い」と仰っていた。通常の矯正教育を実施するために、医療少年院において少年の特性を見極め、矯正教育が実践できるようにする「つなぎ」の役割を果たしている。宮口幸治(『ケーキの切れない非行少年たち』2019新潮社)によれば、強姦、殺人などの凶悪犯罪を起こしている中学生・高校生の年齢の非行少年たちが、基本的な加減計算や漢字の読み書きができないことや、計画が立てられない、見通しが立てられないなどの認知機能の低下が見られたりすることがあるという。そのため、従来の矯正教育をはじめから実施していくことが意味をなさなくなってしまう少年が多く存在している。そこで、医療少年院は必要不可欠の存在となってくると考えられる。自分が行った犯罪に対する反省以前の問題の子どもたちに対して、今までどのように現状を捉え、感じてきたのかを明確にさせること、そうすることによって非行少年たちが少しでも生きやすくなる手立てを見つけていくことが医療少年院の重要な役割であろうと私は考える。
医療少年院の参観を通して、少年院が今や非行少年にとってはもちろん、少年院の外にいる少年たちにとってもとても重要な存在であることがわかった。現在は、地域に向けてこころの相談室を開放しており、地域貢献なども行っていると聞いた。少年たちの抱える困り感の解消はもちろんだが、保護者の育児に対する困り感や孤立感、教育機関の指導者たちの抱える困難を解決していくためにも、少年院で行われている矯正教育、少年とのかかわりは世の中のとても重要な財産となるだろう。
4年 I.U.
参観した際、このセンターの入所少年の特徴について、窃盗罪や性犯罪で入所する割合に比べ、(他の少年院では高い)詐欺罪による割合が低いという特徴があり、集団でのコミュニケーションや役割演技が苦手であったりする傾向が見て取れるとのお話を伺った。入所している少年はさまざまな問題を抱えており、確実に充足すべき福祉ニーズを有しているのだということも痛感した。そうであるからこそ、司法の側面のみの体制ではなく、このセンターのような総合的で包括的な医療・教育による支援体制を整え、社会に再び戻っていくための多角的アプローチに大きな社会的意義があるのだと思った。
また、退所後に適切な姿勢で社会生活を送ることが出来るようになった少年の近況に関する情報は得られないことが気掛かりであるとのお話や、このセンターが夏祭りなどのイベントを通して地域と交流したり防災協定を結んだりするなど、地域との繋がりを重視することを明確に掲げているとのお話も印象的だった。
3年 N.Y.
素直な感想としては、少年院のイメージとは違い、施設内がとても綺麗で学校のような雰囲気だということ。お話してくださった女性の教育調査官の方も、優しい口調で学校の先生のような柔らかさを感じた。また、国際法務総合センターの中に東日本少年矯正医療・教育センターがあるという仕組みを知らなかったし、少年院だけでなく成人の方たちが収容されている場所と併設されているということも知った。他の少年院と違うのは、精神疾患を持つ人やそれに準ずる人たちが多いということ。医療科が存在するのはこのセンターだけだという。一般的に少年院に収容されるのはごく一部で、ほとんどが保護観察処分となることが多い。だからこそ、精神疾患を持つ人たちが集まるこのセンターは対応が難しい人が集まっている。さらに、このセンターに収容されている少年たちの中で一番多い犯罪は窃盗だが、二番目が傷害、そして三番目は殺人であるという。性犯罪をした人も多く、凶悪な犯罪歴を持つ人が多いのが特徴である。それでも集団で行動することの楽しさや難しさを学ぶことで、社会復帰の足掛かりになっているのだと感じた。またお話してくださった教育調査官の方が新しいセンターになって「食事がおいしくなった」とサラッと口にされていたが、更生を目指す少年たちにとって、食事はセンターでの過ごし方に大きく関わってくるのだろうと思った。
お話を伺う中で疑問に思ったのが、当日も質問をさせて頂いたが、職業指導が男女で分かれていること、また選択権が本人たちにあるのかということである。春学期のゼミで訪れた矯正展で法務教官の方の話を聞いたときに、受刑者が行う「作業」が義務化されていて、やらざるを得ない状況になっていると言っていたのが印象に残っていたからだ。明確に選択性なのか決められているのかの回答は得られなかったが、性同一性の可能性がある男子が手芸科を希望できるなど、少しずつ本人たちの希望や特性に沿えるように変化していっているように感じられた。犯した過ちをきちんと反省し自分と向き合ったうえで、ジェンダーに関係なく、未来に向けた糧になるような職業指導が発展していってほしいと思った。